コラム

企業の責務と持続可能な発展の鍵

2025.07.03

〜外国人材紹介の現場から〜

外国人労働者を日本の産業界にご紹介し、彼らの活躍を支援する企業の代表として、「外国人労働者の安全衛生」は、私たちの事業の根幹を揺るがす最重要課題であると認識しております。それは単なる法的義務やリスク管理に留まらず、共に働く仲間である彼らの尊厳と、日本のものづくりの未来を守るための責務に他なりません。
以下に、私たちの立場から見た現状の課題、そして私たちが果たすべき役割についての考えを述べさせていただきます。

 

私たちが直視する「三重の壁」

外国人労働者が直面する労働災害のリスクは、日本人労働者とは異なる、特有の背景を持っています。私たちはこれを「三重の壁」と捉えています。

1. 言葉の壁: 安全指示、危険予知(KY 活動)、ヒヤリハット報告、緊急時の連絡。これら全てが日本語中心で行われる現場では、意味を正確に理解できないことが直接的な事故原因となります。「危ない」「止まれ」といった単純な言葉は分かっても、なぜ危ないのか、どのような危険が潜んでいるのかという背景まで伝わらなければ、本当の意味での安全行動には繋がりません。

2. 文化・習慣の壁: 安全に対する価値観や、過去の就労経験からくる「これくらいは大丈夫」という感覚の違いは、私たちが思う以上に根深いものがあります。また、「上司に意見を言いにくい」「問題を報告すると迷惑がかかる」といった文化的な遠慮が、危険の芽を放置させる要因にもなり得ます。

3. 知識・経験の壁: 日本の労働安全衛生法に関する知識や、特定の機械・化学物質に関する専門的なリスクについての教育が不十分なまま現場に入ってしまうケースがあります。母国での経験が、必ずしも日本の現場の安全基準と一致するとは限りません。

これらの壁が重なり合うことで、外国人労働者は「見えない危険」に晒されやすくなっているのが現状です。

 

斡旋企業が果たすべき「架け橋」としての役割

私たちは、単に人材を紹介する「業者」であってはなりません。労働者と受入企業、双方にとって信頼される「パートナー」 であり、安全衛生における 「架け橋」となるべき存在です。そのために、私たちは以下の取り組みを徹底しています。

【配属前の徹底した教育】

• 母国語での安全衛生教育: 日本へ送り出す前、あるいは入国後の研修期間中に、母国語による基本的な安全衛生教育を実施します。映像やイラストを多用し、「なぜヘルメットが必要か」「なぜ機械に手を出してはいけないか」といった根本的な理由から丁寧に説明します。

• 日本の労働文化のレクチャー: 「報・連・相」の重要性や、ヒヤリハット報告が個人の責任追及ではなく、職場全体の安全性を高めるための貴重な情報であることなどを伝えます。

• 健康状態の確認とケア: 慣れない日本での生活は、心身に大きなストレスを与えます。定期的な健康診断はもちろん、メンタルヘルスに関する相談窓口を設け、孤立させない体制を整えます。

 

【配属後の継続的なサポートと連携】

• 受入企業との緊密な連携: 私たちは、受入企業の安全衛生体制を事前に確認し、改善点を共に協議します。例えば、「やさしい日本語」を使った掲示物の作成、ピクトグラム(絵文字)の活用、多言語でのマニュアル整備などを積極的に提案・支援します。

• 定期的な巡回と面談: 担当者が定期的に職場を訪問し、労働者本人から直接、母国語でヒアリングを行います。企業側には言いにくい不安や問題を吸い上げ、改善に繋げるための重要な機会です。

• 緊急時対応体制の構築: 万が一労働災害が発生してしまった場合、私たちは真っ先に駆けつけ、労働者本人へのサポート(病院への同行、通訳、労災申請手続きの支援)と、受入企業との原因究明・再発防止策の協議を責任をもって行います。私たちは労働者の最も身近な「味方」でなければなりません。

 

受入企業の皆様へのお願い

外国人労働者の安全を守るためには、私たちの努力だけでは不十分です。受入企業の皆様のご理解とご協力が不可欠です。

彼/彼女らを「労働力」としてだけでなく、同じ職場で働く「仲間」として受け入れていただきたいと切に願います。言葉が拙くても、積極的にコミュニケーションを図り、分かりやすく、繰り返し指導していただくことが、何よりの安全対策となります。彼らが安心して「ここが危ないです」と声を上げられるような、風通しの良い職場環境を共に築いていきたいと考えております。

外国人労働者は、日本の人手不足を補う代替的な存在ではありません。彼/彼女らは多様な文化と価値観をもたらし、私たちの社会と経済を豊かにしてくれる貴重なパートナーです。彼/彼女らが日本で「安全に働き、安心して暮らし、ここで働いてよかった」と思えること。それこそが、受入企業の持続的な発展、そして私たちの事業の成功に繋がると確信しています。

私たちは、一人ひとりの命と健康を守り抜くという強い決意のもと、これからも外国人労働者の安全衛生対策に全力で取り組んでまいります。