コラム

長期的な視点と多文化共生を基軸とした戦略へ

2025.06.19

〜外国人材紹介の現場から〜

外国人労働者の受け入れに関する国の政策は、単に労働力不足を補填する手段として捉えるのではなく、日本社会の持続的な発展と国際競争力の維持、そして多様性を尊重する社会の実現に向けた、長期的な国家戦略として位置づけるべきです。私たち外国人材紹介に携わる企業は、その政策動向を注視し、企業と外国人労働者の双方にとってより良い未来を築くための貢献を続けていく所存です。

 

限定的な門戸開放と複雑な制度設計

現在の国の外国人労働者受け入れ政策は、一部の専門的・技術的分野においては比較的積極的な受け入れ姿勢が見られるものの、全体としては依然として限定的な門戸開放に留まっていると言わざるを得ません。特に、いわゆる単純労働分野においては、特定技能制度という新たな枠組みが導入されたものの、対象職種や在留期間には依然として制約が多く、企業のニーズに十分に応えられているとは言えません。

また、在留資格の種類が多岐にわたり、それぞれの取得要件や手続きが複雑であることも、企業側の受け入れ意欲を阻害する要因の一つとなっています。特に中小企業においては、専門の担当者を配置する余裕がない場合が多く、煩雑な手続きに戸惑い、外国人労働者の受け入れを断念せざるを得ないケースも少なくありません。

さらに、技能実習制度は、国際貢献という理念とは裏腹に、現実的には労働力不足の解消に大きく貢献してきた側面があります。しかし、その過程で人権侵害や不当な労働条件といった問題も顕在化しており、制度の抜本的な見直しが喫緊の課題となっています。

 

短期的な視点、産業間の偏り、社会統合への意識の希薄さ

現在の国の外国人労働者受け入れ政策には、構造的な課題がいくつか存在すると認識しています。まず、政策決定が短期的な経済状況や特定の産業界の要請に左右されやすく、長期的な国家ビジョンに基づいた一貫性のある政策設計が不足している点です。これにより、企業は長期的な人材戦略を策定することが困難となり、外国人労働者も自身のキャリアパスを展望しにくい状況を生み出しています。

次に、受け入れセクター間の偏りも大きな課題です。特定の産業、例えば介護や建設業などでは比較的積極的に受け入れが進んでいる一方で、他の人手不足が深刻な産業では依然として門戸が狭いままとなっています。このような産業間の不均衡は、労働市場全体の効率性を損ない、経済全体の活性化を妨げる要因となりかねません。また、地方における深刻な人手不足に対して、都市部への一極集中を是正するような効果的な政策も不足していると言わざるを得ません。

そして、最も重要な課題の一つとして、外国人労働者の社会統合への意識の希薄さが挙げられます。外国人労働者を単なる労働力として捉えるのではなく、日本の社会を共に構成する重要な一員として受け入れ、共に生きていくための環境整備が不可欠です。言語教育の支援、適切な住居の確保、医療へのアクセス改善、地域社会との交流促進など、多岐にわたる社会統合策の遅れは、外国人労働者の孤立や生活不安を増大させ、結果として早期離職や日本社会への不満に繋がりかねません。

 

戦略的受け入れ、多文化共生、そして持続可能な社会の実現

今後、国の外国人労働者受け入れ政策は、真に戦略的で、多文化共生を基軸とした、持続可能な社会の実現に向けた方向へと大きく舵を切るべきだと考えます。

• 長期的なビジョンと一貫性のある政策の策定
日本社会が目指す将来像を見据え、外国人労働者の受け入れに関する長期的なビジョンを明確化し、それに基づいた一貫性のある政策を策定することが重要です。これにより、企業は安心して人材戦略を立案し、外国人労働者は長期的なキャリアパスを描くことができるようになります。

• 産業全体のニーズを踏まえた受け入れセクターの拡大と柔軟化
特定の産業だけでなく、労働市場全体のニーズを的確に把握し、受け入れ sector の拡大や要件の柔軟化を図るべきです。また、地方の人手不足解消に向けた具体的な政策も検討する必要があります。

• 外国人労働者の社会統合を促進する包括的な支援策の実施
言語教育、住居支援、医療アクセス支援、地域社会との交流促進など、外国人労働者が日本社会に円滑に統合するための包括的な支援策を実施することが不可欠です。これには、政府だけでなく、自治体、企業、地域住民が連携した取り組みが求められます。

• 技能実習制度の見直しと特定技能制度の更なる活用
技能実習制度の見直しにおいては、外国人労働者の人権保護を最優先とし、育成という本来の目的に立ち返るべきです。また、特定技能制度については、対象職種の拡大や在留期間の延長など、より柔軟な活用を検討し、長期的な人材確保に繋げるべきです。

• 質の高い外国人材の確保に向けた国際協力の推進
送出し国との連携を強化し、質の高い外国人材を安定的に確保するための国際協力を推進する必要があります。これには、相手国のニーズを踏まえた人材育成支援や、円滑な送出し・受け入れのための情報共有などが含まれます。

私たち外国人材紹介企業は、国の政策の方向性を常に注視し、その変化に柔軟に対応しながら、企業と外国人労働者の最適なマッチングを支援していくという重要な役割を担っています。より多くの外国人労働者が、日本の社会経済の発展に貢献し、共に豊かに暮らせる真の多文化共生社会の実現に向けて、政府、企業、そして私たち事業者が一体となって取り組んでいくことが、今後の日本の未来を左右すると言っても過言ではありません。