コラム

特定技能外国人の受け入れ、企業の準備は万全か?

2025.04.01

特定技能外国人の受け入れ、企業の準備は万全か?
~外国人材紹介の現場から~

今回は、多くの企業様が関心を寄せている「特定技能外国人」の受け入れについて、私自身の考えを述べさせていただきます。

 

特定技能制度は「移民労働の表玄関」

まず、特定技能制度の位置づけについて改めて認識しておく必要があるでしょう。労働力不足が深刻化する日本において、外国人就労に初めて本格的に門戸を開いたという点で、この制度は画期的な一歩と言えます。

しかし、忘れてはならないのは、1960年代から続く外国人研修制度、そして技能実習制度という、いわば「労働力不足への裏口対応」によって、日本はすでに長らく外国人労働を受け入れてきたという事実です。表向きは「研修・実習」でありながら、その本音は「低賃金労働力の導入」であったため、国内外から人権侵害であるとの厳しい指摘を受けてきました。

そうした反省を踏まえ、2019年にようやく整備されたのが、外国人労働の「表玄関」としての特定技能制度なのです。

 

企業の受け入れ準備は道半ば

このような経緯を踏まえ、日本の企業は特定技能外国人を適正に受け入れる準備ができているのか?という問いに対して、現状では「まだまだ十分とは言えない」というのが私の率直な意見です。

もちろん、多くの企業が積極的に受け入れ体制を構築し、外国人の適正な雇用に向けて真摯な努力を重ねていることは承知しています。

一方で、これまで技能実習制度に関与してきた企業や監理団体の中には、残念ながら従来の悪質な慣行が根深く残っているケースも見受けられます。そのような文化が是正されないまま特定技能就労者を雇用した場合、多くの問題が発生する可能性は否定できません。

だからこそ、特定技能制度によって初めて外国人を雇用する企業や業界においては、ぜひ「新しい外国人雇用の文化」を醸成していただきたいと強く願っています。

 

受け入れ企業が取り組むべき重要な課題

外国人労働者の受け入れに関して、企業が真剣に向き合うべき重要な課題は多岐にわたります。

  1. 入管法の遵守: 制度的な制約が多く、日本の雇用慣行に馴染まない点も多いですが、法令遵守は外国人雇用に対する国民の理解を得るための大前提です。
  2. 労働法の遵守と雇用における倫理観: 日本人労働者に対する不適切な扱いですら後を絶たない現状において、外国人に対してはより一層高い人権意識と倫理観が求められます。
  3. 異文化理解: 言語、生活習慣、労働観念、法観念など、異なる文化を持つ人々との協働には、相互理解を深めるための努力が不可欠です。その基本となるのは、丁寧なコミュニケーションです。
  4. キャリアパスの提示: 日本の入管法は在留資格を厳格に定めており、その枠組みを超えた異動は原則として認められません。企業内で明確なキャリアパスを示すことが、外国人の長期的な定着には不可欠です。特に高卒の場合、専門職へのステップアップが難しい現状は大きな課題と言えるでしょう。
  5. 生活とコミュニティ支援: 2025年4月からは、特定技能就労者を雇用する企業は、自治体の求めに応じ、外国人社員への地域ルール教育に協力することが義務付けられます。これは、労働者としてだけでなく、地域社会の一員として生活する外国人と地域社会との信頼関係を築く上で重要な取り組みです。

これらの課題の中でも、特に入管法・労働法の理解とキャリアパス設計は重要です。入管法は日本の雇用慣行とは異なる原理で成り立っているため、その点を十分に理解した上で受け入れ体制を整備する必要があります。

 

今後の展望と企業への提言

残念ながら、現状では入管法が日本の雇用慣行に即した形に改善されることは期待できません。また、移民政策そのものに関する抜本的な法整備も、現在の政治情勢では議論が進む見込みは薄いと言わざるを得ません。

であるならば、現状の入管法を遵守しながら、企業側が主体的に新たな雇用文化を創り上げていくしか道はないでしょう。

今後、特定技能制度によって外国人労働が認められる分野はさらに増えると予想されます。まだ受け入れが認められていない分野においても、インターンシップやアルバイト雇用などの仕組みを活用し、外国人雇用の企業文化づくりを今のうちから進めておくことを強くお勧めします。

 

より良い外国人雇用に向けて

最後に、より抜本的な外国人雇用改革のためには、「日本が好きだから日本で働きたい」という意欲を持つ外国人を、日本語能力、日本文化への理解、日本の法令遵守の意識を基準として受け入れる、日本独自のシステムを構築していく必要があると考えます。メンバーシップ型の文化が強い日本社会においては、日本社会の一員になりたいという意志と努力を在留の根拠とすることが、最も理にかなっているのではないでしょうか。そのためには、海外における日本語・日本文化教育の普及をさらに積極的に推進していく必要があります。

もちろん、このような政策は日本が「選ばれる国」であり続けることが大前提です。そうでなくなった場合、深刻な人口減少に直面する日本の将来において、労働力確保は計り知れない社会的重圧となるでしょう。

外国人労働者の受け入れは、日本の未来を左右する重要なテーマです。企業、そして社会全体が真摯に向き合い、より良い共生社会の実現に向けて努力していくことが不可欠です。

今後も、外国人材紹介の現場からの視点を通じて、皆様に有益な情報を提供してまいりたいと思います。