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在留外国人と家族の呼び寄せ:巨人スモーク選手帰国の”衝撃”
スモーク選手が巨人を退団
6月17日に各紙はこぞってスモーク選手の退団を報道しました。
タイガースファンの私は「しめしめ」と思ったのですが、外国人材事業者としてはこれはとてもとても悲しい、そして深刻な事態なのです。
スモーク選手の退団の理由は「家族を呼び寄せられないから」です。
各紙は「子どもたちに日本文化を教えたがっていた」「家族の支えがなくストレスがたまる」「コロナでストレスがいっそうたまる」などと報道しています。
みなさんはどう思われますか?巨人ファンの方々はたいへん腹立たしいことで、「そんな弱いやついらねえ」と憤慨しておられるに違いありません。
家族を呼び寄せられないことの意味
さて、そこでみなさんにぜひ考えてもらいたいのですが、もしご自身が海外に仕事で赴任するとすれば「一人で行ってこい」というのはよい条件でしょうか?
いや、これはどう考えてもひどい話しで、会社の命令で仕方ないとしても「そんなの仕事である以上あたりまえ」というツワモノは多くはないと思います。
一緒に暮らすから「家族」と言います。むろん、いろんな事情で一緒に暮らせないこともあります。しかし「一緒に暮らす」という原則は、家族を持つことの中でとても大切なことだと私は思っています。私は家族とともに暮らし、日々喜びを分かち合い、困難を一緒に支え合って生きてきたいと思います。
スモーク選手もそんな当たり前の家族を大切にするすばらしいお父さん、夫であるに違いありません。
家族の呼び寄せは「特権」なのか?
日本の入国管理法では、日本に在住する外国人の多くに家族の呼び寄せを禁止しているのはご存知でしょうか?
日本の外国人労働の3分の1を占める「技能実習生」は家族を呼び寄せることができません。
2019年にできた新しい「特定技能1号」の制度で日本に来る外国人も家族を呼び寄せることはできません。
つまり、日本で暮らす外国人のうち、家族を呼び寄せることができるのはごく一部の「特権的」な外国人であって、プロ野球選手として入国を認められたスモーク選手もその一人であるわけです。
そういう日本のこれまでの制度の常識からすると、「家族を呼び寄せられるだけでもありがたいと思え」ということなので、今回のコロナ禍の水際対策としてその「特権」が停止されたとしても「がまんしろ」というわけです。
でも、ほんとうにそれでよいのでしょうか?
家族と離れ離れにするのは人権侵害
このような事情は諸外国でも同様なのですが、ヨーロッパをはじめとする移民先進国では家族の呼び寄せについて考え方が大きく変わってきています。
世界にこの考え方を大きく変えさせた一つは1989年に制定された国連子どもの権利条約です。
子どもは親と一緒に暮らす権利を人権の一つと認め、各国の法律により親子を引き離すことは人権侵害とみなされるようになりました。
外国人の家族帯同を認めてこなかった国も、これを機に改善が進められています(大西楠・テア著「グローバル化時代の移民法制と家族の保護 ―家族呼び寄せ指令とドイツの新移民法制―」『社会科学研究 65(2)』東京大学社会科学研究所,pp.157-184, 2014)。
しかし残念ながら日本では家族の保護という点で在留資格が検証されることはなく、今回のコロナ禍でも当たり前のように外国人の家族呼び寄せを一方的に禁止しています。その被害者の一人がスモーク選手であるわけです。
外国人が家族を呼び寄せるとコロナ感染拡大のリスクは高まるのか?
そもそも日本の在留資格制度では大部分の外国人が家族を呼び寄せることはできません。
そして一部の「特権的」外国人に家族を呼び寄せることを禁じたとしても、それはコロナ感染リスクにどれほど効果があるでしょうか?
一方では日本人は当然のように外国から日本へ帰ってきます。ベトナムが自国民に対して行ったのと同様に、日本も日本人の帰国を禁止できるでしょう。しかしそれはしなかった。そして一部少数の外国人には家族の呼びよせを禁止した。このような「国籍に基づく異なる扱い」を日本国憲法は「差別」と規定し、禁止しています。しかし残念ながら日本の在留資格制度は差別に満ちた制度です。そういう差別体質は、コロナ禍のような災害時に露呈してきます。この機会に私たちは人が国境を越えてどんどん移動し、自分が才能を発揮できる最も適切な場所で活躍する権利を認められる「グローバル化」にあわせて自らの法と文化を見直すべきでしょう。
スモーク選手に謝ります。ごめんなさい。
タイガースファンとしては敵の重要戦力が消えてくれたことについほくそえんでしまうのですが、そういう私情は脇におき、このたびの日本の入管のひどい差別によって活躍の場を奪われたスモーク選手に心よりお詫びしたいと思います。スモーク選手は日本の文化をとても愛してくれて、子どもたちに日本文化を学んでほしいと思っていたそうです。その子どもたちが将来、あなたとおなじようなひどい目に日本で合わないよう、私は日本人としてこの国のありかたを少しでも変えられるよう努力することを誓います。